評価の基本 STEP7「痛みの根本原因:重力」【臨床での考え方:膝関節編】

運動器リハの基礎

今回は「膝関節」を例にして、臨床での考え方を紹介します。

「重力の影響」を一緒に確認していきましょう。

本題に入る前に、「整形外科疾患の基本の流れ」の再確認です。

この流れを再認識した上で、続きをお読みください。

では、具体例紹介を始めます。

スライドの写真をご覧ください。

ご高齢の患者さんであれば、珍しくない姿勢だと思います。

この姿勢を見たとき、どのような印象を持ちますか?

何となくですが、膝や腰への負担が強そうな印象はありせんか?

 

その理由を言葉で説明できなくても、

感覚的にそう感じる方は多いのではないかと思います。

その「感覚的なこと」に理屈を当てはめて、膝や腰への「重力の影響」を理解していきましょう。

 

体のどんな部位であっても、重力の影響を考えるポイントは「重心」と「モーメント」です。

重心と支点のズレによって、「重力によるモーメント」は大きくなってしまいます。

その単純な例が、STEP5で確認した「頭部前方偏位姿勢」です。

 

頭部前方偏位のような単純な例では、「重力による影響」がイメージしやすいですよね。

しかし、その他の部位となると難しく感じると思います。

頭部前方偏位とその他の部位での違いは、「合成重心」を考えるかどうかだけです。

前回の復習もかねながら、基礎を一緒に確認していきましょう。

膝への負担を考えてみましょう。

この姿勢では、どのような重力の影響が発生するでしょうか?

 

その考え方は単純です。

膝への負担を知りたければ、膝に「てこ」を作るだけです。

図のように、膝関節屈伸軸を支点とした「てこ」を用意します。

滑り・転がりと言った厳密な関節運動を考慮する必要はありません。

大雑把でOKです。

てこが用意出来たら、あとは「力」を書き加えるだけです。

てこに書き加えなければならない「力」は、たった2つだけです。

 

1つが「外力」です。

今回考えるべき外力は「重力」ですね。

 

そして、もう1つが「外力に抵抗する力」です。

重力に抵抗して立位を保持する為に、「人が発揮しなければならない力」のことです。

 

つまり、考えるべき「力」は、以下の2つです。

・身体にかかってくる外力(重力)
・外力に抵抗する力(人が発揮しなければならない力)

この2つのうち、まずは「重力」から考えてみましょう。

重力は、「膝上の合成重心」にかかっていると考えます。

膝関節よりも下方に存在している下腿と足部は、膝関節には無関係です。

重力の影響は、「てこよりも上に存在する重さ」を考えるだけです。

 

頭部前方偏位の場合は、頭部という「1部位の重心だけ」を考えれば済みました。

しかし、膝の場合は「1部位だけ」とはいきません。

膝から上の全てが関係します。

そこで、膝上各部位の重心を全て合わせた「合成重心」を考えなければなりません。

 

合成重心を導き出す方法は、覚えていますか?

「重心と重心を結んで直線を作り、その直線を重さの比率で分割する」

これが合成重心の求め方でした。

 

その方法通りに合成重心を算出するなら、以下のようになります。

 

まずは、「右大腿の重心」と「体幹の重心」を結んで合成重心を見つけます。

さらには、その「右大腿&体幹の合成重心」と「左大腿の重心」を合成させて、、、

と、このような感じで、どんどん重心を付け加えて、膝上の合成重心を導き出します。

こんな地道な方法でもいいんですが、それだと手間がかかります。

 

結論としては、

膝上合成重心は「身体重心(第2仙椎の2横指前方)から上方にずらした位置」です。

そこに「膝上の合成重心」があるものと考えます。

その結論に至った「合成重心の求め方」を説明します。

説明しますと言っても、今回の最重要ポイントではありません。

いつかご理解いただければ大丈夫なので、気楽にお読みください。

 

合成重心の求め方

上の図を用いて説明していきます。

 

そもそも、「重心」とは「重さのつり合いが取れる点」です。

STEP4では「指一本で支えられるところに重心はある」と説明しました。

そこで、図のように人間を寝かせて、てこのバランスをとって下さい。

どこを支えれば、つり合いが取れそうですか?

 

まず、スライド左上の場合をご覧ください。

第2仙椎2横指前方にあるとされている「身体重心」の真下に、支点を設定しています。

体全体の合成重心である「身体重心」を支えれば、てこのつり合いがとれます。

これと同じ発想で、膝上の合成重心を求めます。

 

膝上の合成重心を知りたいとは、どういうことか?

つまり、膝下が存在しない場合、身体重心はどこにあるかを考えるということです。

つまり、先ほどのスライド右下の図のように考えます。

下腿と足部が無くなったと仮定して、身体重心を探します。

 

膝下が無くなったけれども、

支点の位置が変わらずに第2仙椎2横指前方のままだったら、

てこのつり合いは、どのようになるでしょうか?

 

図中の矢印のように、時計回りに回転してしまいますよね。

膝下の重さが無くなるということは、てこの左側の重さが軽くなったことを意味します。

ということは、てこの右側部分のほうが重くなってしまいます。

右側が下に傾いてしまいますね。

こんな時、つり合いをとるためにやれる方法は3つだけです。

 

①てこの左側(下肢側)に何かを加えて、重さを増やす。

②てこの右側(上半身側)の何かを減らして、重さを軽くする。

③支点の位置を右側へズラす。

 

このどれかしか、つり合いをとる方法はありません。

 

①の「重さを増やす」という選択肢は不可能です。

大腿をもう1本追加するなんてことは出来ないからです。

②も同じです。

上半身から減らせるものなんてありません。

つまり、「重さを調整してつり合いをとる」という方法は不可能です。

 

そうすると、残された方法は「③支点の位置を右側にズラす」しかありません。

 

こうして、つり合いをとる為に、支点の位置が頭側にズレることが確定しました。

支点を頭側にズラして、再びつり合いがとれたところに「膝上合成重心」が存在します。

 

では、どの程度ズラすのか?

本来であれば厳密に求めたいところですが、それは不可能です。

言えることは、「膝上合成重心は頭側にズレる」ということだけです。

そして、ズレるにしても「胸椎レベルまで大きくズレるほどではない」ということくらいは言えます。

 

なぜかというと、

下腿&足部の重さは、体重全体からしてみれば大きな割合ではないからです。

失った重さが大きくなければ、つり合いをとる為に支点をズラす幅は少なくて済みます。

 

ひとまず、確実に言えることは「膝上合成重心は頭側にズレる」ということだけです。

そして、これが臨床レベルの限界です。

これ以上の厳密さを求めるなら、特殊な測定機器が必要です。

 

そして、これ以上の厳密さが必要ない理由は、もう1つあります。

それは、「重力の影響を考える場合、上下方向のズレは重要ではないから」です。

 

上下のズレは、膝を支点とした時のモーメントに全く影響しません。

下の「膝を支点にしたてこの図」を見てみて下さい。

図で示した位置に合成重心(赤丸)があるとすれば、

重力の影響で「てこは時計回りに回転」します。

仮に、合成重心が上方(頭側)にズレても、下方にズレても、支点からの距離は変わりません。

つまり、重力による「モーメント」は変化しません。

支点からの距離が変化しなければ、てこを回転させる力(モーメント)も変化しません。

つまり、重力の影響を考える時、上下のズレは気にする必要がないということです。

結論に影響しない要素に、細かさやこだわりは不要です。

本当に大事なことはこれからです。

膝上合成重心は赤丸部分です。

この合成重心に、「重力による真下方向の力」がかかっています。

赤い直線矢印が「重力による真下方向の力」を表しています。

これで、「重力による力」の書き込みは完了です。

 

この赤い矢印は、支点となる膝関節運動軸(屈伸軸)の「後方」を通過します。

と言うことは、

てこは、重力によって「時計回り」に回転させられようとしています。

言い換えれば、「重力の影響で膝は屈曲させられようとしている」ということです。

 

重力の影響で、「膝が屈曲させられる力」が発生していることが分かりました。

この時、重力に抵抗できる力を人が発揮しなければ、立位保持は不可能です。

もしも重力に抵抗できなければ、膝折れして転んでしまいます。

 

膝折れせずに立ち続けるには、重力とは逆回転の力が必要です。

重力は「時計回りの力」なので、人は「反時計回りの力」を発揮しなければなりません。

 

もっと分かりやすく言えば、

重力が膝を屈曲させようとしているから、

頑張って膝を伸展させなければ立っていられません。

ではここから、立位保持に必要な力を図に書き加えていきます。

「重力に抵抗する力」が黄色矢印です。

この力は、大腿四頭筋によるものです。

 

膝を伸展させる大腿四頭筋の力は、てこを「反時計回りさせる力」を生み出してくれます。

 

もしかすると、「大腿四頭筋による反時計回りの力」がイメージしづらいかもしれません。

念のため、説明しますね。

 

大腿四頭筋による膝伸展というと、下腿が動く膝伸展イメージがありますよね。

でも、それは「足部が固定されていない場合」です。

立位では「足部が固定されている場合」で、大腿四頭筋の働きを考える必要があります。

足部が固定されている場合、大腿四頭筋の収縮力は下前腸骨棘を引っ張ります。

 

脛骨粗面側が動かず、下前腸骨棘側が動くことになります。

いつものイメージとは逆です。

この作用によって、膝折れして人が倒れることを防げます。

 

これで「てこ」が全て完成しました。

「赤の力」と「黄色の力」のつり合いが取れるとき、立位が保持されます。

 

では、この「てこ」の力関係に注目しましょう。

そこで、てこだけの状態で考えていきます。

では、図のように「てこ」だけに注目して、力関係を考えてみます。

てこを回転させる力は「モーメント」です。

支点からの距離が離れるほど、てこを回転させようとする力は増幅します。

つまり、モーメントが大きくなるということです。

 

まずは、重力による影響に注目です。

この場合、膝上合成重心位置が後方へズレるほど、膝折れさせようとする力は大きくなります。

重力によるモーメントは、重心位置の変化で増幅します。

 

一方、重力に抵抗するための筋力は、位置を変化させることが出来ません。

なぜなら、筋の付着部は変えられないからです。

支点からの距離を増やして、モーメントを増幅することが出来ません。

その為、筋力のモーメントを増やしたい場合は、発揮筋力を増やすしか方法がありません。

 

このような関係性をふまえて、つり合いを考えます。

合成重心が後方へズレるほど、大腿四頭筋は頑張りを強くしなければなりません。

つまり、膝上合成重心が後方にズレた場合、大腿四頭筋は頑張りを強める状況となります。

 

ズレた重心を支えるために、頑張り続ける筋肉。

これが「後方重心姿勢での膝への影響」です。

しかし、これとは逆パターンもあります。

重心が良い位置に納まることで、筋肉が楽になるパターンです。

その例として、標準姿勢の場合を考えてみましょう。

標準的なアライメントで、膝への重力の影響を考えてみましょう。

 

重力の影響を考えるときは、標準的なアライメントとの比較が重要です。

なぜ標準との比較が重要なのかと言うと、

標準との差が「余計な負担」である可能性が高いからです。

普通なら存在しないはずの「余計な負担」は、組織を破壊する「異常な力」の発生原因となり得ます。

 

では早速、標準的な立位姿勢を検証してみましょう。

 

標準的な立位姿勢を保持するとき、重心と膝関節運動軸の位置関係は思い出せますか?

重心線が通過するランドマークを習ったことがあるはずです。

 

「乳様突起・肩峰・大転子・膝蓋骨後方・外果の前方」でしたよね。

 

このランドマークの配置から考えれば、

標準姿勢の場合は、膝屈伸軸の「前方」を通過するということですね。

 

混乱しないで下さいね。

膝蓋骨後方は、膝屈伸軸の後方ではありません。

膝蓋骨後方は、膝屈伸軸の「前方」です。

 

では、標準姿勢での重力の影響を、てこだけで示します。

てこだけで考えてみましょう。

標準立位姿勢の場合、重力の影響は膝屈伸軸(支点)のわずかに前方を通過します。

つまり、支点の左側に位置します。

 

背中が丸まった老人の後方重心姿勢とは、逆の位置関係ですね。

標準立位姿勢での重力の影響は、図のように「反時計回りの力」です。

高齢者の後方重心姿勢の例では、「時計回りの力」でした。

重力の影響が逆転しました。

 

後方重心姿勢の場合、膝を屈曲させようとしていましたよね。

一方、今回の標準立位姿勢では、膝を過伸展させる力が発生しています。

 

重力による影響が、膝を過伸展させようとする「反時計回りの力」であるとき、

つり合いをとるために必要な力は「時計回りの力」です。

言い換えれば、「過伸展させない力」です。

人間が発揮できる「過伸展させない力」は、何が考えられますか?

 

伸展の反対なので、屈曲させる力です。

そこで「ハムストリング」が思いつくと思いますが、ハムストリングの必要性は低いです。

なぜなら、膝は「構造的に過伸展しない関節」だからです。

ACLなどの「膝関節を構成する組織」によって、過伸展しづらい作りになっています。

だから、筋肉が頑張る必要性は低いです。

 

さらに、後方重心の時には頑張っていた大腿四頭筋はどうでしょうか?

標準立位姿勢では、「大腿四頭筋が頑張り続ける必要性は無い」と断言できます。

なぜなら、重力は膝を過伸展させようとしているからです。

後方重心姿勢では、重力が膝を屈曲させようとしていました。

だから、大腿四頭筋が頑張らざるを得なかった。

でも、今回の標準姿勢では、重力は膝を伸展させようとしています。

つまり、大腿四頭筋が頑張り続ける必要性は、まったくありません。

 

このことから、後方重心姿勢は、このように表現することができます。

「本来なら必要のない頑張りを、大腿四頭筋に強制しつづけている姿勢」

 

普通ならやらなくてもいいことを、やらされている状態です。

まさに「余計な負担」です。

後方重心姿勢では、「余計な外力」に耐え続ける生活を送ることになります。

そんな生活が毎日続けば、膝伸展機構にトラブルが発生するリスクは高くなります。

 

こんな感じで、標準との比較も大事な検証作業です。

「標準の時と比べて、患者さんの体への負担は増えていないか?」を考えてみて下さい。

 

膝関節の考え方の紹介は、以上となります。

 

もしかしたら、少し混乱気味の方もいらっしゃるかもしれませんね。

いろいろとややこしく感じさせてしまったら申し訳ないです。

もし混乱気味であれば、少し時間を置いて、動画をご覧になってください。

今よりも多くのことを理解できると思います。

 

あとは、「よく分からなかった…」と落ち込まないでくださいね。

慣れていない考え方は、誰でも最初は「負担」を感じます。

今の段階では、以下のことだけ忘れないで下さい。

 

どんな時も「基本の流れ」が重要です。

「外力」⇒「内力」⇒「組織損傷⇒「痛み」

この流れだけは、絶対に忘れないで下さい。

 

どんなに頭が混乱してきても、この「基本の流れ」に必ず帰ってきてください。

僕がお伝えしていることは、一貫して「基本の流れ」を踏まえたものです。

 

頭がゴチャゴチャになってしまったら、今日はもう休みましょう。

そして、時間をあけて、2,3日後に復習してみて下さい。

 

一度で全てを理解しなければならないわけではありません。

大事なことは、自分のものにできるまで続けられるかどうかです。

たった1回のつまづきだけで、すべてを捨ててしまわないで下さい。

もし分からないことがあれば、ホームページの「お問合せ」からご質問ください。

 

では次回は、腰部と股関節への「重力の影響」を考えていきます。

今回の考え方と併せて、臨床での考え方の参考にして頂ければ嬉しいです。

次回もよろしくお願いします。

 

STEP7の動画はこちら

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